カルナはインドの叙事詩「マハーバーラタ」に登場する悲劇の英雄です。
誕生
太陽神スーリヤと王族の娘クンティーとの間に生まれた男子。生まれながらに黄金の鎧と、耳飾りを身に着けて生まれました。
この鎧は母クンティーがスーリヤに頼んで授かったもので、彼の成長に合わせて鎧もサイズが変わっていったそう。そしてこの鎧には不死になる力もありました。
しかし、華々しい血筋と姿に生まれたにもかかわらず、カルナは未婚の母になることを恐れた実の母親クンティーによって、生まれてすぐ箱に詰められ川に流されてしまいます。
彼を「悲劇の英雄」と表現することが多いですが、スタートからも大変な苦難と悲運が待ち受けていることを予感させます。
御者の息子として
さて、川に流された赤ん坊は、その後アディラタとラーダー夫妻に拾われて育てられます。
貧しい御者でしたが二人には子供がいなかったため、光り輝く鎧と耳飾りをつけた美しい赤ん坊に感動し、そして喜びに涙しました。神様が自分たちにこの子を与えてくださったのだと、二人は喜びました。
赤ん坊は黄金の鎧と、赤みを帯びた耳飾りをしていたため、二人は「カルナ」と名前をつけたのです。カルナとは「耳飾りをつけた男」という意味があるそうです。
こうして実の母によって始末されたはずのカルナは、アディラタとラーダーの愛情を受けて利発で武具の扱いに長けた青年へと成長していきました。
最大の好敵手、アルジュナとの出会い
成長したカルナは、とある武闘会に臨みました。それは王家が開いた武術を披露する場。その場ではパーンダヴァの王子たちが既に素晴らしい技を披露していました。
名だたる貴族、僧侶たちが揃い、武術を盛り上げる演奏や場を湧かせる群衆。誰もがパーンダヴァの王子たちに歓声を送っていました。このパーンダヴァには5人の王子がいて、上からユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ。そして双子のナクラとサハデヴァです。
中でも兄弟随一の完成人と言われたアルジュナに、一際喝采が起こります。誰が見ても完璧な離れ業の数々、誰もアルジュナに対し低評価を投げる者はおりませんでした。
ただ一人、カルナを除いては。
カルナは壇上に上がるとアルジュナとの決闘を申し込みました。彼の技は拙い、是非とも自分の優れた弓術を披露したいと。そしてカルナはその場で自分の力を見せつけました。最高と褒められたアルジュナと同じ技を、難なくこなす姿。美しいカルナの姿や技に、これまた群衆も盛り上がります。
ところが、ここで彼の御者としての身分が邪魔をしました。低い身分の者が王族と決闘することなぞ叶わない世の中だったのです。
問い詰められ、カルナは低い身分を名乗らざるをえなくなり、周りから「身の程知らずが」と散々に馬鹿にされてしまいます。ちょうどこの時、息子の活躍を一目見ようと、カルナの養父アディダラが現れたことも、バツが悪かったと言えるかもしれません。
間違いない実力と努力、度量を持ってしても、身分という壁がカルナの前に立ちはだかったのです。野次と中傷にカルナは唇を噛み締め涙を堪えました。試合は中止させられましたが、ここにきてカルナにも救いの手が差し伸べられます。
唯一、パーンダヴァ王子たちを良しとしないカウラヴァの王子、ドゥルヨーダナでした。
ドゥルヨーダナの登場
ドゥルヨーダナは、アルジュナに匹敵する強者カルナを味方にするために彼にアンガ王国の王の座を与えました。身分で蔑まれるのなら王になればよいというのです。カルナは自分に味方してくれたドゥルヨーダナに深く感謝します。そして二人は無二の親友になっていくのです。
数々の呪い
カルナには様々な呪いがかけられていました。
アルジュナより強くなるために弓術を習いに行った時、ドローナに師事をあおいだのです。ですがドローナはバラモンも武士階級(クシャトリヤ)でもない者に奥義は教えられないと断ったのです。
そこでカルナはパラシュラーマの元へ行き、今度は「自分はバラモンだ」と偽って彼に弟子入りします。パラシュラーマはカルナを気に入り、様々な技を彼に授けました。
しかし、パラシュラーマは武士階級をひどく嫌っていました。カルナは気をつけて彼に気づかれないようにしていましたが、ひょんな事でカルナが武士階級の者だとバレてしまいます。
カンカンに怒ったパラシュラーマはカルナが命の危機に瀕した時、自分が教えた技を全て思い出せないようになる呪いをかけてしまいました。これがカルナの最期に関わるのは言うまでもありません。
ドローナには武士階級ではないと断られ、パラシュラーマには武士階級だからと呪いをかけられたカルナ。生まれは武士階級にも関わらず、御者の子として育てられて、それ故に認められない苦しさ。
そしてカルナは他にも、アルジュナの父・インドラ神にも生まれた時から身につけていた鎧を差し出します。自分の息子が戦闘に勝てるように、カルナの戦力を奪うことがインドラの目的でした。それを察知して、カルナの父スーリアもカルナに「鎧だけはあげてはならぬ」と苦言を呈していたのですが…。
このスーリアから授かった鎧は、カルナが纏っている間不死身にするものです。引き換えに神をも一撃で殺せる雷槍をインドラから手に入れますが、これはたった一回しか使うことの出来ない槍でした。
鎧の価値を考えれば、まだ不足があったでしょう。鎧を身につけていたカルナは、アルジュナとクリシュナが二人がかりでも仕留められないと言われていました。その父神より授かった鎧さえも、彼は惜しまずインドラに与えてしまったのです。
他にも、兄弟間での戦争をやめさせるために、母クンティーがカルナの前に現れます。彼女はカルナに出生の秘密を打ち明けました。ドゥルヨーダナ側のカウラヴァ族に味方しないで、本当の兄弟の元(パーンダヴァ)へ来て欲しい。と懇願しました。
しかしカルナは生まれてすぐ赤子だった自分を川に流して捨てたこと、それに対し手厚く持てなしてくれたドゥルヨーダナの対比を語ります。どちらかに着くかは明白だと。カルナは受けた恩のためにもドゥルヨーダナと共に、パーンダヴア5王子と戦うことをクンティーに告げました。
ただ、捨てたとは言え母の願いを無下には出来ず、アルジュナ以外の兄弟は殺さないと約束します。
この約束や呪い、カルナの戦力を削ぎ落とそうとする企みによって、カルナは死に囚われていくのです。
続く